原価管理の取組事例
産業用設備の設計・組立・据付を業務としている製造業者Aは、業種柄、工期が数カ月と長く、その間の労務費を含めた受注案件ごとの製造原価の把握が困難であった。そのため、各月で売上・材料費・外注費に大きな波があり、期中に会社全体でどれだけ利益がでているのか正確に把握できなかった。
難しい原価計算の仕組みを取り入れるには手間を要し、非現実的といわざるを得ない状況にある。そこで総務部が主体となり、どの程度受注案件があり、案件ごとの材料・外注費の直接原価がどれくらいあるのかをつかむため、設計担当者に毎月末、「受注案件仕掛集計表」の提出を求めることとした。この帳票により、これまで発生した原価実績と予定発生額が一覧できるため、限界利益率が把握できるようになった。これに加えて、案件ごとの「作業時間集計表」を作成。受注案件ごとに、その日の作業時間を記入してもらっている。月末に作業時間を集計することで労働原価がどの程度かかっているかを把握することが可能となった。簡易的な帳票の導入により、全社的な原価管理の取組みが始まった。
原価管理の全社的な取組みの結果、受注案件ごとの労働工数を含めた原価が明らかとなり、採算性の把握ができるようになった。また、これに付随して下記の成果があった。
1.同類の受注案件の依頼時に、その材料費・外注加工費の変動費率と労働工数を考慮した正確な見積書の作成が可能となった。
2.納期が遅れている受注案件について、どの工程で労働工数がかかっているのか明らかにし、人員配置見直しを含めた生産工程の改善が図られるようになった。
3.経理面では、提出される「受注案件仕掛集計表」に基づいて検収予定と入金の予定並びに材料費・外注費の支払予定が把握しやすくなり、直近の資金繰りが立てやすくなった。
巡回監査時には、当社の原価管理体制に基づいた「期首たな卸高」と「期末たな卸高」の概算棚卸額を計上、月単位で、より正確な限界利益率がわかるようになり、精度の高い月次決算の把握が可能となった。また直近と当初予算との対比によりに進捗状況を確認し、当期の限界利益率に基づいた今後の業績推移を予測。
早い段階での節税対策や業績改善対策を検討し、これを数字に落としこむことにより、戦略的な意思決定に役立てられるようになった。
経営力向上計画活用事例
木製建具等の製造販売を業務としている建具製造業者B社は、設備・従業員規模に比べて受注が増加したことで、納期対応のために外注に依存することが多くなってきていた。
近年、機械設備の更新をしておらず、旧型の設備が中心であったため、ノウハウを持った一部の職人にしか操作することができず、作業効率の改善が課題であった。
この課題を克服するため、自動加工機械設備の導入を検討することとなった。当該機械の導入により、単純な加工の所要時間が短縮される他、職人の誰もが操作可能となり、いわゆる「多能工化」が図られることとなる。その結果、会社本来の強みである“職人技”を活かしたより付加価値の高い加工に時間を割くことが可能となる等の効果が期待される。早速、取引業者へ見積及び工業会の証明書発行の可否を確認し、より有利となるよう経営力向上計画制度を利用して購入することとなった。
機械設備の取得は順調にすすんだため、計画書の関東経済産業局への申請が後となったが、工業会の証明書の発行を待って、申請期限の60日以内に提出することができた。
関東経済産業局へ計画書の提出した後、約2週間程で認定された旨の文書が届いた。
計画書が認定されたことにより、税金面で下記のような効果があった。
1.償却資産申告において、固定資産税の特例申請をし、固定資産税負担が向こう3年間2分の1に軽減されることとなった。
2.決算申告において、通常の償却費1,383千円とは別に、特別償却費10,019千円(期末簿価0円まで償却)を計上することで、目先の税負担を300万円近く抑えることができた。
自動加工機械設備導入後の状況について社長へ確認したところ、従業員のスキルが上がり、効率よく仕事ができるようになって、残業も減少してきているとのこと。
また、外注へ依頼する仕事の内容が変化してきているとのこと。今までは、家具や建具の製作を全般的に依頼していたが、機械導入後は部分的にパーツのみを製作してもらうようになってきているとのことだった。
機械設備の導入により税負担を削って財務効率を良くするとともに、製造コストの内容を変化させ生産性を高めることができた。
経営改善計画策定支援事業活用事例
内装工事業を営むC社は、十分な売上高があるにも関わらず毎月の資金繰りに悩んでいたため、以前から提案をしていた「経営改善計画策定支援事業」に取り組むことになった。この事業は改善計画を策定し、取引のあるすべての金融機関の合意を得てから認定支援機関(会計事務所)とC社の連名で、経営改善支援センターに提出するものである。計画で重要視したのは、仕掛工事の十分な把握と、現場ごとの原価管理を徹底して行い、現場ごとの利益を確保することである。これは、資金繰りが苦しい原因を追求した結果、規模の大きい工事では、工期が長期に渡ることで追加の材料費などが発生するが、担当者が把握しきれずにおり、工事が終わってから赤字に気が付くことがあったためである。
そこでC社では建設業用システム(DAIC2)を活用し、材料や外注費を計上する際に現場ごとに振分け、現場別工事台帳を作成することにした。担当者にも外注費等の請求書を細かくチェックしてもらい、金額が妥当か、どの現場の経費なのかを再度確認してもらうようになった。
この取り組みの成果が、金融機関を含めたモニタリングで評価されることとなる。
現場ごとの原価管理を始め、現場別工事台帳を作成した事により、次の事が分かった。
①工事の利益率は、工事の規模に関わらないこと。
大規模な工事でも利益率が悪かったり、小規模の工事でもしっかり利益が出ていたりすることが分かった。売上高ではなく、工事ごとの利益を確保することが大事である。
②受注先によって利益率に偏りがあること。
工事台帳を作成した事で、DAIC2システムの「工事粗利益順位表」が見られるようになった。工事粗利益順位表は、エクセルでデータ切り出しをし、受注先ごとに集計することができる。
これにより、受注先によって利益率に偏りがある事が分かった。そのため利益率の良くない取引先との契約は慎重にし、利益が確保できるように見積作成を行うことにした。
以上のことを取り組んだ結果、銀行も同席したモニタリングでは、計画を上回る利益を確保し、銀行にも評価してもらうことができた。